追悼
私は この過疎村に来て 知り合いもおらず 話す相手もいませんでした。
いませんでしたというか、必要を感じていませんでしたし、それは今も変わりません。
しかし、あなたはいつも、こんな私のジャイロXを恰好良いとほめてくれるし、池を眺めては綺麗にしているなぁとほめてくれました。なんでも褒めてくれました。
だから私も、回覧板を届けに行く度に、両足の無いあなたの電動車いすを褒めました。御飼育されているなんだかよくわからないヒメダカよりちょっと濃い赤色のメダカを褒めました。DIYしたという縁側を褒めました。あなたの人生を褒めました。
今、すぐ隣にずっといたのだから、もっと足を運べば良かったと後悔しています。
人づきあいの苦手な私に、上手な笑顔を見せる事のできない私に、暴言に近い軽口の止まらない私に、いつも、ニコニコと楽しそうな可愛い笑顔を向けてくれたことは一生忘れません。
脚があった頃の写真を何回も見せてくれましたね。その都度、何回も同じ話をしてくれましたね。もはや聞かずとも一言一句覚えてしまいましたので、その話は二度と聞かなくても平気です。でも、もう一度話したいです。一度というか、何度でも。
あなたのような恰好よくてかわいいジジイになりたいと心底思っています。
『あそこの蕎麦がうまいんだよ』って言うから、行きました。うまくなかったです。
『あそこの天ぷらがうまいよ！』って言うから、行きました。売り切れでした。
あなたのオススメするそのほとんどは、私との相性が悪かったです。
あなたが私に内緒で旅立つ少し前に無理やりビールを勧めてきましたね。あれはなんだったんですか？強引すぎて腹が立っています。だってあなたは緊急搬送された直後でしたから、こちらは心配でした。でも、すごくおいしかったんです。たんなる500mlのスーパードライです。私もいつものんでいる普通のスーパードライです。しかし、なんならちょっとぬるい。むしろ最悪のコンディションでした。ネコのエサみたいなチータラをくれましたね。うまかったです。一緒に飲んだのはあれが最初で最後です。あなたが好きな、私が好きなBBQ、いつか一緒にしようねと言ってたのになぁ。
そうそう『誰が使うんだ？』ってくらいチープな東南アジアっぽい女性向けのアクセサリーをくれましたね。あれは本当にどうしていいかわかりません。あなたがなぜ買ったのかもわかりませんが、ニコニコと嬉しそうな顔に騙されました。体よく私にゴミを押し付けましたね。生涯の宝物です。
頼ってもらえれば、私はなんでもできたのですが、そうではなかったなと、今感じています。私からもっと、どうですか？やりましょやりましょと、押しつけがましいくらいに土足であがっていけば良かったです。今、あなたがそこにいるならそうしています。
これからは一人残された天涯孤独の奥さんを、私が陰ながら支えていきます。ご心配なさらずにどうぞ、安らかにお眠りください。
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