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団地の少年


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あの頃の市営団地はまるでスラムだった。

団地の少年

カレーの匂いや醤油を煮てるような匂いなんかが混ざる夕暮れの団地。
僕はランドセルと夕陽を背に、足下の影を見ながら歩いていた。

団地の外観はどこもだいたい同じだけれども、僕が住んでいたのは5階まである階段を挟んで向かい合わせに玄関があり、それが4個で1棟と言う形。
僕の住む棟には同級生が4人住んでいた。

僕は、暇なときはだいたい団地の横壁に向かって野球ごっこ用のビニールボールを投げて時間をつぶす。
漠然と続けているうちに、どこまで高くまで投げられるのかを試したくなった。
何度も屋上を目掛けて投げる。

貧乏だったから、ビニールボールを無くす事は許されない。
1つ100円の色つきビニールボール。
屋上に乗れば2度と取り戻せないと言うギリギリのスリルを楽しんでいた。
母に「無くした」と言えば、嫌な顔をせず買ってくれるが、そう言う事ではない。

ビュウっと、強い風が吹いた。
スーっとボールが流れて地面に落ち、小さくバウンドして駐車場に転がってゆく。
僕は、コロコロと転がるボールを追いかける。
やがてそれは、デコトラみたいなワンボックス型の軽自動車のアゴにはまった。

「あ、やばい」

そう思った数秒後。
中からアフロヘアーの運転手が出てきて何か喚きながらそのボールを僕の顔面にぶつけた。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

僕が謝る度に、ボールを投げつけられた。
柔らかいボールなのでそんなに痛くはないけど、とにかく怖い。
恐怖で顔がひきつる。

何度もボールをぶつけているうちにスッキリしたのか、おっさんは最後にニコニコしながら「次やったら殺すぞ」と言い、僕の腰を蹴っ飛ばして去っていった。
小便をちびりそうになりながら、おっさんの背を目で追い、居なくなるのを確認してから家に飛び帰った。

確かに不注意であの人の大事な車へボールを転がしてしまった僕が悪い。

 

学校が休みの日は、なんとなく集まってくる友達数人で野球をしていた。
そこは、打ちあげれば確実にホームランになるほどの狭いスペースで、駐輪場や物置などの障害物に囲まれた広場的な空間。
建物と建物の間の空間だから、打ち上げればどこかの家の窓を[ガンッ!]と叩き、驚いた住人から睨まれるが、県営住宅なので児童も多く、割らない限り怒られはしない。
下手くそな僕はうまく打ち上げることが出来ず、ゴロになるか三振するかのどちらかで、運良くヒットを出しても足が遅いのだからベースに進むことなくアウトになる。
なんせ狭い。

ある日の事。

「これ、軟式ボールって言うんだぞ。兄ちゃんの持ってきた!」

1人が自慢しながら、いつものボールより硬いボールを持ってきて、そのホンモノ感が僕たちの心に火をつけた。
下手くそな僕でさえも当たればかっ飛ぶが、当たりが強いほどプラスチック製のカラーバットは手が痺れて痛い。
バットは、すぐに元に戻らない程に凹んで使い物にならなくなる。
そうなれば試合は中止だ。
屋上にボールが飛んで行って試合中止になることも多かった。

僕んちだけじゃなく皆も貧乏だから、何度も球やバットを買ってと親に言えなかったので、「学校の倉庫にたくさんあるから持ってこよう」とか「なんとかして屋上の鍵を壊そう」とか、そんな話をしていた。

僕はあることに気がついた。

「あすこに見えんのボールだべっちゃ」

5階の窓の柵に挟まるボールを指差す。
登るには柵の上に足をかけ、上の階の柵に手を伸ばし掴まり、腕力で登る。
勿論、落ちたらただじゃ済まない。

「オレ、やれそう」

「オレ」のイントネーションのクセが強い勇者が言った。
彼は仲間内では一番ホームランを飛ばす。
そのせいで球を失くしまくったと言う責任を感じていた事を、皆が知っていた。
僕たちは、登ろうとする彼を止めなかったし、それどころか、ワクワクしながら見守っていた。
彼が1階の柵に立ち、2階の柵に手をかけ、その豪腕でもって懸垂を始めたその時。

「なにしとんねんワレ!」

彼はピンクのニッカポッカ姿のおっさんに引きずりおろされ、見守っていた者達は一斉に逃げ出し、引きずりおろされた勇者は硬い拳骨を喰らった。
彼は何かを言おうとしたが、今度は頬をひっぱたかれた。
卑怯な僕は少し離れたところからコッソリ見ていて、おっさんが居なくなってから彼の元へ駆け寄った。

「オレ...オレ...」

その夜、泣き続ける彼の姿が頭にこびりついたまま眠った。
翌日、僕の一人称は僕ではなくオレとなる。
夕方、親父に「オレじゃなくて俺だろ、変だぞそれ」と笑われ、オレは俺に進化を遂げた。
次第に友達も自分の事を俺と呼び始め、自分を僕と呼ぶ人は居なくなった。

それから季節が流れ、日が落ちるのが早くなった頃にはもう誰も集まらなくなり、野球もしなくなっていた。

ある日、俺は弟と柔らかくて大きなボールで遊ぶ事になった。
いつもの広場の地面はドロドロだったので、駐車場で遊ぶ。
サッカー版のキャッチボールみたいな事を続けていると、あのデコトラみたいな軽自動車がやってきた。

「ちょっと一回ストップ!」

俺は大きな声と身振り手振りで弟を制止する。
しかし、奴は何を思ったのかボールを思いっきり蹴り上げた。
その日1番のスーパーカーブが俺の横をかすめ、軽自動車の方へと飛んでいった。

駐車を終え、車外に出ていたあのアフロのおっさんは少し嫌な顔をしたけれど、全然関係ない方向へボールを思いっきり蹴り上げてそのまま立ち去っていった。

ボールは別の車のボンネットに直撃し、ボコンと音を響かせた。
(車が凹んだかもしれない、ヤバイ)
俺たちはボールを拾って家に走って逃げ、全然言うことを聞かない弟を責めまくって泣かせた。
その最中、母に弟を泣かせた事でめちゃくちゃ怒られて泣かされ、その日は晩飯を食わないと決意。
頑なに晩飯を食わないことで親父にめちゃくちゃ怒られながら拳骨を食らって、家出してやろうと思ったけれど、外は寒いのでやめた。
自分の部屋がない俺はトイレに鍵をかけて立てこもる事に。
しかし、1時間もしないうちに親父がキレて、トイレから引きずり出され、そのまま引きずられて玄関から放り出された。

さすがに色んな事に対して頭にきて、このまま凍死してやろうと考えたけれども、凍死の方法がわからないし眠かったので、家の前の自転車置き場の片隅で寝ることにした。
靴下すら履いてない足が冷たく、腐るんじゃないか?と思うと怖くなった。
手でこすったり揉んだりして足を暖めたりしながら過ごす。
手が冷え切れば、太ももの間に挟み温める。

俺が全く帰ってこない事に親父がキレて、今度は引きずられて家の中に放り投げられた。
なにかゴチャゴチャと言ってたけど、どうせ誰も俺の話なんて聞いてくれないので、どうでも良くなってそのまま寝た。

朝起きてテーブルを見る。
俺のご飯にラップがかかっていたけど、絶対に食わないと決めた事なので、ランドセルを背負って逃げるように学校へ向かった。

目が腫れていたらしく同級生達に不細工だなんだとからかわれたけれど、腹が減りすぎて怒る気力はなかった。
俺が何も言い返さない事に気を良くしたやつらが、今度は「痩せ我慢」と囃し立てる。

しつこく、何度も。

俺は、あまりにも色んな事が悔しくて泣いてしまった。

担任に呼ばれて色々聞かれたけれど、何かを言えば誰かが悪くなる、とか、言った事でまた怒られるとか、色んな事が頭の中でグルグルして、腹が痛いと適当な事を言うことにしたら、本当に腹が痛くなり、保健室に連れていかれた。

保健室の先生が色々と話してくれた。
腹痛はすでになく、ただただ腹が減っていた。

昼になり、担任が様子を見に来た。

「職員室で給食を食べるか?」
「したっけ用務員室で食べたい」※したっけ=それなら
すんなりと要望が通った。

 

用務員室は狭い和室。
給食のおばちゃん3人と用務員のムキムキマッチョメンが居て、俺はその人たちが好きだった。
親戚っぽい感じの普通さが心地よかった。
食後に冷凍みかんをもらって食べた。
特別感が更に心地よかったが、「食い終わったら教室に戻れ」とムキムキマッチョメンに言われ、素直に従った。

教室はなんか重い空気になっていた。
おそらく担任がなんか言ったんだろう。
こういうのが嫌なので、何も言えなくなったのをわかってもらいたかったけれど、結局は俺が悪いと思ったら、更に悲しくなった。

誰かが小さな声で「痩せ我慢」と言ったのが聞こえた。
クスクスと笑う声に気を良くしたのか、少し大きな声で「痩せ我慢」と、また言った。
「わかった。じゃ我慢しねぇわ」とそいつ目掛けて突進し、そいつの机だのランドセルだの蹴り飛ばしまくった。
「わりぃわりぃ」と謝るそいつを見て、そのにやけた頬に鉛筆をぶっ刺してやろうと思って鉛筆を握った瞬間に担任に思いっきり弾き飛ばされ、家に帰された。

泣きそうになりながら家に帰る道すがら、同じ棟の兄貴分が彼女と歩いていた。

「もう学校終わりか?」
「帰れって言われたから帰ってる」
「は?よくわかんねぇけど気をつけてな」

中学に上がって関わりがなくなった兄貴分が、更に遠い人になってしまったような気がして、ますます気持ちが沈む。

 

草が繁り過ぎて誰も寄り付かない公園に向かって歩く。
でかいバッタが居たので、なんとなく踏み潰してやろうと思ったけど、かわいそうなのでやめた。
鉄棒に座りながら、なんて言って家に帰るか考えてたら、母が自転車でやってきて、俺を見つけるなり小走りで近づいてきてひっぱたかれた。

 

その勢いで鉄棒から落ち、背中を強打し、大声で泣いて、自分に起こった全てを喚き散らした。
母も泣いていたので、謝った。

やはり、俺が悪い。

晩飯はオーブンでじっくり焼いた手羽中にエバラの焼き鳥のタレをかけた物。
俺の大好物だ。
この晩、母と親父は大喧嘩し、親父は大酒を飲んで色んな物を破壊してどっか行った。

きっとこれも、俺が悪いのだろう。

何をすれば悪くなくて、何をすれば悪くなるのかずっと考えてたけれど、何をやっても自分が悪くなると言うこと以外わからないまま、気がついたら朝になっていた。

 

”明日の準備”を当日に急いでやってランドセルを背負って学校へ行く。
道中、昨日やってしまったことを謝ろうと思いながらも、またなんか言われたら2度と人と喋れなくなるくらいぶちのめしてやろうと考え、歩く。
後ろからドンと誰かに押されて、前のめりになった。

 

「昨日、ごめんな」

 

昨日の奴だった。

 

「俺も、ごめんな」

 

なんか、胸がスッとした。

 

暴れてもスッとしなかったのに、謝られて謝り返した、それだけで気分が軽くなったんだよ。
彼も同じだったようで、その後の事をベラベラと語る。
担任に怒られた事、親に怒られた事、さっきまで気が重かったこと。
俺も、弟から始まった一連の事を話した。

 

「俺も冷凍みかん食いてぇなぁ」

「あれはキラカードくらい特別だや」

 

 

記事の締め

今日、2月22日はネコの日とされていますが、私の誕生日です。
だもんで、自分の記憶を書きました。
ムキムキマッチョマンは、たくましい黒肌に軍手焼け。
優しく、大声で笑い、たまに怒る。
用務員ってのは教員とは違い、離れたところから生徒を見守る。
学校内では地味な裏方。私にとっての偉大なHero。


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